「音を頼りに、氷の壁へ 〜見えざる登攀者と、山を捨てた女〜」
🎬 本編(縦型・約10:28)
AI音声(VOICEVOX:黒沢冴白)による朗読ナレーション。字幕・BGM・タイトルは本作オリジナル。 YouTubeで見る ↗
🎞 ショート(分割版)
- 1/5凍てついた、一枚の氷の壁0:57
- 2/5男の名は、ジェシー2:34
- 3/5女の名は、タマラ2:30
- 4/5家に帰ってからも、女は、苦しんだ2:31
- 5/5女が、下から、声を送る1:38
この話を物語の切れ目で分けた縦型ショート(各3分以内)。1本ずつ単体でも見られます。
📺 原案となった公式動画
原案・映像の権利は GORE-TEX Brand Japan「Breaking Trails|エピソード1」↗ に帰属します(原語:英語)。本作はその内容を日本語で再ナレーションした翻案です。
📖 ナレーション全文
凍てついた、一枚の氷の壁。
陽の光を弾き、青白く光る、垂直の世界である。
人は、それを見上げて足がすくむ。
だが、その壁を、目の見えぬ男が登ろうとしていた。
男は、氷を見ていない。
男が頼るのは、ただ、音であった。
「音を頼りに、僕の出す音を頼りに――」
男は言う。
「あなたは、僕が右へ行くのか、左へ行くのか、正確に分かるんだ」
これは、光を失った男と、山を捨てた女。
二人の登攀者が、それぞれの運命に抗おうとした、物語である。
──男の名は、ジェシー。
男には、生まれつきの、遺伝性の病があった。
目の奥で、光を感じる細胞。
それが、少しずつ、パンくずのように崩れ、消えていったのである。
昨日は見えたのに、今日は見えない。
そういうものではなかった。
日ごとの変化が、あまりに、緩やかであった。
だからこそ、男には、それを受け入れる時間があったのだという。
やがて、光は失われた。
だが、男は山を降りなかった。
目の見えぬ身で、「オールドマン・オブ・ホイ」を、初めてリードした男。
モロッコで、初登攀を成し遂げた、最初の盲人。
グリーンランドの、冬季初登攀。
「人はよく、僕が目が見えないことを忘れてしまう」
男は、静かに笑う。
「たぶん、それは、僕の態度のせいなんだろうね」
陰では、こう言う者もいた。
「彼に、あんなことをさせるな」
「あんなの、無理だ」と。
面と向かっては、決して言われない。
あとになって、耳に入るだけであった。
だが、男は、揺るがなかった。
「僕は、自分の障害で、定義されたくない」
「ああ、それは僕の一部だ。変えることはできない」
「それでも、自分の人生を生きて、やりたいことをやるんだ」
男は、運命を、一人の人物のように思い描くのだという。
「よし、お前は、この試練を僕に投げつけた」
「僕が、これをやるのを、止めようとした」
「でも、僕はやり遂げた」
そう言って、男は、運命という存在に、
中指を、突き立てるのである。
──女の名は、タマラ。
女は、かつて、高みを求める人間であった。
女性として、史上最年少で、ローツェの頂に立つ。
八千メートルを、越えた者。
惑星の、丸みを、その目で見た者であった。
「わあ、と思いました」
女は振り返る。
「人生で、最高の瞬間の一つでした」
より高く。より速く。もっと、もっと。
それが、女を、駆り立てていた。
八千メートルより上。
そこでは、体は、酸素の半分しか使えない。
まったく別の、世界に入る。
女は、その境界の先を、追い求めていた。
二〇二〇年。
まだ一つだけ、冬季に登られていない、八千メートル峰があった。
女性として、史上初の冬季初登攀。
たった一度の、可能性であった。
女は、恋するように夢中で、意欲にあふれ、
すべてに、感謝していた。
だが、その後、すべては、悪い方向へ変わっていく。
女は、JPムーアと共に、山頂を目指した。
しかし、このまま進めば、命を落とす。
女には、はっきりと、分かってしまった。
JPは、山頂へ向かうことを、選んだ。
女は、引き返した。
その遠征の最後に、五人が、還らなかった。
人生で、最も悲惨な体験であった。
「今、一番後悔しているのは――」
女は、声を落とす。
「彼に、さよならを言わなかったこと」
「それが、それができる、最後の機会だったのに」
家に帰ってからも、女は、苦しんだ。
毎日、どんなスポーツをしても、死ぬのが怖かった。
もう、山には、行きたくなかった。
「誰かが、私の人生を、自由を奪っていった」
「そう、思えたんです」
いつも、自由な人間であった。
自然を、人生を、体感したいと思うだけで、
恐れなど、一度もなかったのに。
──そして、二人は、出会う。
一人は、緩やかに光を失った男。
一人は、断ち切られるように自由を失った女。
その転機の形は、まるで、違っていた。
女は、男を、まだよく知らなかった。
彼と登るアイスクライミングは、まるで、初登攀のようであった。
まったく、新しい体験。
無線が、繋がる。
「僕の声、聞こえる?」
「うん、聞こえる」
男が、リードする。
プロテクションを、安全装置を、氷に打ち込むのは、男の責任であった。
そのギアは、落ちたときのための、ただ一つの安全策。
もし落ちれば、長い距離を、落下する。
日常では、男の障害が、男を制限する場面は、いくらでもあった。
だが、この壁では、違う。
どこに、アイススクリューを打つか。
どこに、手を、足を、置くか。
選ぶ責任は、すべて、男にあった。
「ガイドは、手伝えるけど――」
男は言う。
「そのアイススクリューを、打つことはできない」
「あなたの手を、もっと強く握らせることもできない」
「それは、自分次第なんだ」
女が、下から、声を送る。
「斜面が、少し緩やかになってきたよ」
「もうすぐ、頂上だ」
そして、頂へ。
「タマラ、ビレイを解除するよ! 登れ!」
「ほっとしたわ!」
「僕もだよ」
女は、K2から、癒される必要があったとき、
自分の体ではなく、
自然との、つながりに、意識を向けたという。
「それが、私を、とても癒してくれた」
「私は、その一部なのだと、感じられたから」
今はもう、必ずしも、千メートル級である必要はない。
「私は、一人の人間として行くのであって――」
女は言う。
「パフォーマーとして、行くのではないんです」
見えぬ壁を、音で登った男。
還らぬ山から、自由を取り戻した女。
「全部、ただ、自分の足と――」
「何もないところにかけた、アックスを、信じるだけさ」
道は、切り拓かれる。
それを止められるのは、運命ではなく、
その一歩を、踏み出さぬ心だけなのである。
クレジット
- 原案
- GORE-TEX Brand Japan「Breaking Trails|エピソード1」↗
- 音声
- VOICEVOX:黒沢冴白(VOICEVOX)
- 背景映像
- Adobe Stock #291779110
- 構成
- AIによる翻訳・プロジェクトX風リライト・字幕・BGM(本作オリジナル)